介護タクシーの売上は、そのまま事業主の収入や手取りになるわけではありません。売上から事業の経費を差し引くことに加え、借入金の返済や税金、事業主の生活費まで分けて考える必要があります。
この記事では、1台で営業する場合の売上の組み立て方と、条件を置いた月間の試算を紹介します。地域の需要、予約件数、料金、支出の違いを確認しながら、自分の開業計画を考えるための参考にしてください。
この記事で押さえたい3つのポイント
- 月の売上は「1件あたりの料金 × 1日の件数 × 営業日数」で試算します。料金と件数には、実際に見込める根拠が必要です。
- 売上・利益・手元資金は別の数字です。ローン返済を含む支出の差引額を、そのまま利益や手取りとは呼べません。
- 以下の金額は業界平均でも収入保証でもありません。1件6,000円、月22日営業等を仮定した計算例です。
介護タクシーの売上には何が含まれる?
売上を考えるときは、送迎の運賃だけでなく、実際に提供するサービスと料金の内訳を整理します。すべての利用者に、すべての料金が発生するわけではありません。
- 運賃・運送に伴う料金:距離や時間に応じた運賃、適用する迎車・待機等の料金。
- 介助に対する料金:乗降や院内移動等、実際に行う介助の内容に応じた料金。
- 機材の利用料金:車椅子・ストレッチャー等を貸し出す場合の料金。
- 別途提供する生活支援等の料金:買い物代行などの救援事業を行う場合の料金。送迎と分けて、対応できる業務・時間・料金を整理します。
運賃と介助料金・機材料金をひとまとめにせず、利用者に内訳が伝わるようにすることが大切です。運賃の設定・変更は、営業する地域の制度と必要な手続きに沿って行います。
1台で営業する場合の月間売上を試算する
基本の計算式は、1件あたりの平均料金 × 1日の平均利用件数 × 月の営業日数です。1台で営業する計画では、車両の台数ではなく、その1台が1日に何件対応できるかを考えます。
試算の前提:1件6,000円・月22日営業
ここでは、運賃・介助料金等を合計した1件あたりの平均料金を6,000円、営業日数を月22日と仮定します。全国平均や標準料金を示すものではなく、当法人の支援料金でもありません。
この試算では、片道の送迎を1件として数えます。往路と復路をそれぞれ計上する場合は、料金と対応時間もそれぞれ見込み、同じ売上を重複して数えないようにします。
| 営業ペース | 1日の売上 | 月の売上 |
|---|---|---|
| 1日3件 | 18,000円 | 396,000円 |
| 1日6件 | 36,000円 | 792,000円 |
計算は、それぞれ「6,000円 × 3件 × 22日」「6,000円 × 6件 × 22日」です。一方、同じ条件でも1日1件にとどまる場合の月売上は132,000円です。件数を確保できなければ、試算した売上には届きません。
1日6件が実際に可能か、時間割でも確認する
送迎に必要なのは、利用者を乗せて走る時間だけではありません。迎え先までの移動、乗降の介助、病院等での待ち時間、次の迎え先への回送、車内清掃なども含めて考えます。
例えば、午前中に通院の予約が集中すると、営業時間に余裕があってもすべての予約を受けられるとは限りません。「依頼がある件数」と「安全に対応できる件数」の両方から、1日の予定を組み立てましょう。
売上から支払予算を差し引くと、いくら残る?
次の表は、上の2つの売上例に対し、毎月の支払いや将来の支払いに備える積立を仮置きしたものです。金額は実際の見積もりや相場ではなく、計算の考え方を示すための予算例です。
個人事業主本人が運転し、従業員を雇わない想定です。法人の役員報酬等を含む試算ではありません。年払いの保険料や車両整備等は、月割りで予算を確保する考え方です。
表の2列は、異なる営業条件を置いた別々の予算例です。件数が増えると家賃も自動的に上がる、という意味ではありません。
| 項目 | 1日3件の例 | 1日6件の例 |
|---|---|---|
| 車両の返済・リース支払 | 30,000円 | 30,000円 |
| 営業所の賃料 | 30,000円 | 50,000円 |
| 車庫代 | 5,000円 | 10,000円 |
| 燃料費 | 20,000円 | 35,000円 |
| 保険料の予算 | 10,000円 | 15,000円 |
| 整備・消耗品等の予算 | 10,000円 | 15,000円 |
| 通信費 | 5,000円 | 5,000円 |
| 広告費・その他の予算 | 20,000円 | 20,000円 |
| 支払・積立予算の合計 | 130,000円 | 180,000円 |
| 月の売上 | 396,000円 | 792,000円 |
| 簡易差引額 | 266,000円 | 612,000円 |
266,000円・612,000円は「利益」「手取り」の金額ではありません。
上の予算に、従業員の人件費、税金、事業主本人の社会保険料・生活費、予算外の故障等による臨時支出は含めていません。また、売上を計上した月に全額入金されることを前提にした簡易的な比較で、実際の月末残高を示すものでもありません。
営業所や車庫を借りるか、自宅を使うか、車両を購入・リースのどちらにするかでも予算は変わります。売上件数が増えれば燃料費等も変わるため、支出を固定したまま売上だけ増やす試算は避けましょう。
費用項目の確認には介護タクシーの経費の解説、開業時に用意する資金については介護タクシーの開業資金の解説もあわせてご覧ください。
売上・利益・手元資金を混同しない
ローン返済と経費は、同じものではありません
車両のローン返済には現金の支払いが伴いますが、借入金の元本返済は、利益を計算する際の経費には含めません。車両の購入費は、原則として減価償却によって使用する期間に配分するなど、支払いとは別の考え方で処理します。
そのため、上の表は「支払・積立予算」として整理しています。税務上の必要経費や利益を計算した表ではありません。リース契約の扱いや事業で使う割合などを含む個別の会計・税務処理は、税理士等に確認してください。
参考:日本政策金融公庫「創業の手引」2026年5月版・収支計画(冊子29ページ、PDF)、国税庁「減価償却のあらまし」
年商と年収、黒字と資金繰りも別です
月の売上を12倍した金額は、同じ売上が続いた場合の年商であり、事業主の年収や手取りではありません。休業日、季節による需要の変動、点検・故障による運休なども踏まえ、月ごとに見込みを立てます。
また、請求してから入金まで時間がかかる取引では、売上が立っていても手元のお金が不足することがあります。毎月の支払日と入金日を確認し、当面の運転資金を確保しておくことが重要です。
売上と収益を左右する3つの要因
1.地域の需要と予約が集中する時間帯
地域の人口だけでなく、通院先までの距離、病院・施設の所在、競合事業者、利用者が希望する曜日や時間帯を確認します。「都市部なら高収入」「地方なら長距離で稼げる」とは一概に言えません。
2.対応できる介助・機材と、所要時間
介助や機材に関する料金を受け取る場合も、設備・資格・人員等に照らして実際に対応できる内容であることが前提です。追加サービスで売上が増えても、対応時間や費用が増えれば利益が同じように増えるとは限りません。
3.継続利用と、無駄の少ない運行計画
安全な運行、分かりやすい料金説明、予約時の確認を積み重ね、継続して利用してもらえる体制を整えます。ケアマネージャーや医療・福祉関係者にサービスを知ってもらう取り組みも考えられますが、紹介や予約が確約されるわけではありません。
効率化は、予約時間・迎え先・帰りの予定などを確認して回送や待機の無駄を減らすことから考えます。無理な予定の詰め込みや、通常の予約を相乗りでまとめることを前提にした試算は避けましょう。
開業前に収支を確認する4ステップ
- サービスと料金の内訳を決める。対象となる利用者、送迎範囲、介助・機材の対応内容を整理します。
- 1日の予定を時間割にする。送迎・介助・待機・回送を含め、安全に対応できる件数を見込みます。
- 支出と必要資金を見積もる。車両・物件・保険等は実際の見積もりを集め、生活費や入金までの運転資金も分けて確認します。
- 予約が少ない場合でも計算する。創業当初と軌道に乗った後を分け、件数の減少や運休があった場合も支払いを続けられるか確認します。
日本政策金融公庫の創業計画書セルフチェック・収支計画でも、予測の根拠、経費の漏れ、返済可能な計画かどうかを確認できます。
なお、収支計画が成り立つことと、許可申請の資金要件を満たすことは別の確認事項です。許可側の条件は介護タクシー許可の資金要件、準備全体の順番は介護タクシー開業までの流れで確認できます。
まとめ:売上の金額だけで開業を判断しない
1台・1件6,000円・月22日営業という仮定では、1日3件で月396,000円、1日6件で月792,000円の売上になります。ただし、これは平均収入や、開業すれば得られる金額を示すものではありません。
料金と件数の根拠を置き、支出・税金・返済・生活費・運転資金まで分けて検討しましょう。開業手続きについては、介護タクシー許可の要件と申請手続きもあわせてご覧ください。
資料確認日:2026年10月20日。試算は記事内で仮定を置いた説明用の例であり、個別の収益診断・融資判断・税務判断を行うものではありません。
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